44角じゃダメなんだ
ありし日の「将棋ジャーナル」誌に掲載され、ありし日の詰将棋ジャーナル賞選考会で話しの種になった(発表時はペンネーム「青山雁」)。手数は短いが少し考える要素はあると思う。このページのタイトルは、解図の上ではあまりヒントにならない。
この形のまま54玉とされては届かないので、角を打つ一手である。
33角としてみる。
46玉と逃げて13角に37玉なら良いが、35歩の中合が成か不成かを訊ねる手筋で、業界用語的には「打診中合」という。同角成とすると37玉で打歩詰。同角不成では36の空白を埋めることができない。
初手は22角が正しい。ここで46玉なら13角不成とするのが22に打つ意味で、あくまで態度保留を貫くことができる。角を持駒にしたままなので、35歩合にも同角不成と応じることができる。そのため、22角には33歩と中合する。これを取ると角が24に来てしまうので態度保留ができないが、取らずに44角、46玉、13角成とすると、35歩が二歩のため打てない。
二歩禁狙いに歩の中合を発生させ同じ筋に角を打つ手筋は、当時はまだ新しいもので、おそらく最初である佐々木浩二氏作(詰将棋パラダイス掲載)に次ぐ2作目。しかも9手という短手数である(佐々木氏作は、歩の中合の意味を焦点中合の位置変換に因っているため、手数は必然的に長くなる)。
しかし本作は、その「見てくれ」の点で作者自認の大きな欠陥がある。作意手順が「22角、33歩、44角」なので、比較すべき紛れ手順は初手44角であるべきである。しかし、本作では比較すべき紛れは初手33角であり、初手44角は「54玉で逃れ」としている。前述選考会でも、選考委員の若島正氏のここを衝かれている。そして、それ以上に問題なのが、始まりの2手を過ぎた後があまりにもだらしないことである。しかも、紛れで散々主張した13角は、成・不成が非限定である!
44角を主張するに際しては、54地点を封鎖すれば良いと思われるかも知れない。しかしそうすると、「44角、46玉、35角!」という絶妙な手順があり詰んでしまう。つまり、紛れ手順で焦点となった「35に角を発生させること」に簡単に成功してしまうのである。例えば「16成桂」を「16と」に替え、54に玉方の歩でも置けば、その手順の7手詰とすることができる(初手は44角の限定打。初手22角は33桂合で詰まない)。
この構図、この意味付けに頼る限り、初手44角の紛れ手順を狙いにリンクさせることは放棄しなければならない。16に配置した成桂とともに、作者の苦悩と妥協の所産である。