詰将棋の著作権について


(1997年8月18日 一部改定1998年1月1日 文責:金子清志)

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  1. 詰将棋の著作物性について

    現在のところ、詰将棋が著作物であることを示す法律その他の規定や、詰将棋の著作物性が争点となった判例はありません。しかし、以下の理由から詰将棋は著作物であると推定され、同時に私たちは詰将棋が著作物であるという立場をとっています。

  2. 個々の作品の著作権が及ぶ範囲について

    一個の創作詰将棋の著作権が及ぶ著作物の範囲は、その一個の創作詰将棋についてのみです。つまり、(極端にいえば)最後が頭金の1手詰で終わる詰将棋を創作して発表しても、最後が頭金の1手詰になる詰将棋すべてに対して著作権の侵害を主張することはできません。これは、頭金の1手で詰む1手詰の詰将棋を創作(?)して発表しても同じことです。これらはおのおの個別の作品と理解されます。

    したがって、今までにあった名作の最初の2手を削ったり、金と成香を取り替えれば別の作品と主張することができますし、事実私たちは別の作品として認識します。私たちはこうした「作品」に対して、著作権法に規定される「オリジナル性」を盾に、著作物性を否定することも可能です。しかし私たちはそうした方法を採るつもりはありません。創作と模倣の線引きが難しいということももちろんですが、規則で制限することは必ずしも得策でないし、そうした「作品」に対しても適切な評価を下せると考えているからです。つまり、仮にあなたが過去の名作をそのような改変を加えた「作品」を発表しても、私たちは何ら評価をしません。また度重なって行われれば、過失と思われていたものが故意と思われ、いずれ盗人呼ばわりされることは必定です。

    逆にあなたが、正当な創作行為の結果として過去の名作と同一の作品を作ってしまった(そして不幸にも発表してしまった)としても、何ら悲観することはありません。特定の狙いを限界で表現しようとした場合に、全くの同一図・同一手順となってしまうことは不思議ではありません。むしろ、数々の名作を手がけた先人の域に到達したことを喜びましょう。あなたにはいずれ、名作と呼ばれる作品を完成させる機会が訪れることでしょう。

  3. 著作物に関する権利について

    一般的な著作物に関する権利は、著作者人格権と著作権があります。
    まず、著作者人格権について。

    1. 著作者人格権は、著作物を創作した原著作者を保護する権利です。現行の日本国著作権法では、公表権、氏名表示権、同一性保持権とされています。著作者人格権は原著作者固有の権利で、譲渡することができません。日本国では、著作権法の中で著作権と著作者人格権の双方が規定されていることや、著作権と著作者人格権を一括して「著作者の権利」などと称する人がいるため、著作者人格権があたかも著作権に付随するもののように誤解を受けますが、両者は全く別のものです。むしろ重要なのは著作者人格権の方なのです。

    2. 公表権は、公表するかしないかを決定する権利です。著作物がすでに公表されている場合は公表権は原著作者によって行使されていますが、著作物が未だ公表されていない場合は、原著作者に無断で、または意に反して公表することはできません。(このようなことをこの場で書く必要性に疑問を持たれるかも知れませんが、未発表の創作詰将棋を某誌のQ&A欄に出して、解答を公表してしまうといった事件が過去に何度かあったのです)

    3. 氏名表示権は、著作物の表示に付随して原著作者の氏名、もしくはそれに類する雅号、ペンネームを表示する権利(または、しない権利)です。著作物を表示する場合は、原著作者が選択したとおりの氏名・雅号(それは、おそらく初回発表時に表示されていたもの)を表示しなければなりません。

    4. 同一性保持権は、著作物を改変させない権利です。著作物を表示する場合には、改変の方法・改善・改悪にかかわらず、内容を無断で変更してはいけません。

    続いて、著作権について。

    1. 著作権には、色々なものがありますが、詰将棋に関係のあるものとしては、頒布権、複製権、上演権、送信可能化権があります。著作権は、その一部または全部を譲渡・相続したり、貸与することができます。

    2. 頒布権と複製権は、併せて俗に出版権と呼ばれることもあります。著作権者に無断で著作物を出版したり頒布したり展示することはできません。

    3. 上演権は詰将棋では、いわゆる「大道詰将棋」が相当するかも知れません。著作権者に無断で、創作詰将棋の解答を公衆に求めるような催しを行ってはいけません。

    4. インターネット時代に対応した改正著作権法は1998年1月1日から施行されています。インタラクティブ送信を「自動公衆送信」と考えて、インターネット・サーバーに情報を記録・入力したり、そのサーバーをネットワークに接続することを「送信可能化」と定義することで、「送信可能化権」という新しい権利の概念が生まれました。

    5. なお、出版権と類似の用語で「版権」という言葉が使われることがありますが、法的には死語なので使用しないことが望まれます。単に版権と表示した場合は、著作権全般を指しますが、狭義に出版権と誤解されることが多いためです。

    著作権法違反は刑事事件です。しかし、原著作者や著作権者の権利として、出版差止請求や損害賠償請求(一般に損失利益+慰謝料)などを起こすこともできます。

    著作者人格権・著作権の効力は、原著作者の死後50年です。しかし、無名や変名で公表された著作物は初公表後50年です。ただし、著作者が容易に特定できる変名は、本名と同等とみなされます。

  4. 著作物の利用について

    著作物の利用、すなわち著作権者でない者が著作権として規定される行為を行うためには、著作者人格権を守り、著作権者に許可を得ることが必要です。この場合「著作権者の許可を得る」という行為には、一般的は経済的な契約(つまり金銭)が伴いますが、私たちは自分たちが作る創作詰将棋がどれほどの経済価値を持っているか十分に存じています(最悪はゼロと思っています)から、大抵の詰将棋作家の場合は「ポインタ付きのメール」程度で十分のはずです。決して無断借用はしないで下さい。

    著作物は適切な範囲で自由に引用できます。適切な範囲とは「引用された著作物が引用した全体の著作物から見て、必要かつ最小限」である場合です。
    創作詰将棋作品を集めた、いわゆる「問題集」は編集著作物ですから、個々の詰将棋作品は引用とは見なされません。

    報道を目的として、また入学試験問題などの資格試験問題に利用する目的としては、著作物を自由に引用できます。ただし、資格試験については、その試験の実施自体が営利である場合は著作権者の許可が必要です。よろしければどうぞ。

  5. 雑誌などの詰将棋欄に掲載された作品の著作権

    将棋関係の雑誌では、読者が創作した詰将棋を広く募っているものがあります。その結果として、応募した作品が入選し、誌面に掲載されています。これらの、いわば「作品公募システム」では、応募要項に特別な規定がない限り、作品の著作権は作者(=原著作者)にあり、私たちは出版社と出版権設定契約を取り交わしたものと考えています。したがって、出版社の許可のもとに当該著作物を利用することはできません。なお、出版権設定契約の期限は、特に取り決めがある場合を除き、最初に出版された日から3年間と考えます。これは一般に契約を結んだ(と推定される)日が不明である場合が多いためです。

    一般週刊誌やスポーツ新聞に掲載されているプロ将棋棋士出題の詰将棋については、契約の方法について当方の知る範囲ではありませんので、当該出版社に直接お尋ね下さい。これは、市販されている詰将棋作品集・詰将棋問題集も同様です。
    多分、期待するような許可はもらえないと思いますけど。

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